年金支給開始を繰り上げる時の注意点、「60歳vs65歳」受取り額逆転は何歳か

年金

本記事は、2020年5月時点での内容です。

年金制度は度々変更されていますので、常に最新の情報を確認してください。

■年金の支給開始年齢

皆さんご自分の年金の支給開始年齢はご存知だと思います。

今現在は年金の支給開始年齢が60歳から65歳へ段階的に引き上げられているところです。

国民年金の支給開始年齢は65歳からですが、ややこしいのは厚生年金です。

会社員として勤めたことがある人の場合、2021年度以降に60歳を迎える男性(1961年4月2日以降生まれ)は65歳からでないと老齢年金(老齢基礎年金・老齢厚生年金)は受け取れませんが、2021年までに60歳を迎える男性は、「特別支給の老齢厚生年金」が受け取れます。

また女性については、2026年度以降60歳を迎える人(1966年4月2日以降生まれ)が65歳の支給開始となります。

■年金支給開始の繰上げ

この老齢年金については、本来の支給開始年齢より前倒しで受け取る「繰り上げ受給制度」があります。

この繰り上げ受給制度を利用すると、早く年金が受け取れますが、その分、年金額は減額されます。

現行制度では、1カ月繰り上げにつき0.5%減額されることになります。

この繰り上げ制度で年金の受給を前倒しした場合の年金について具体的に考えていきましょう。

■5年繰り上げると「年金額が3割」少なくなる

年金の受給開始年齢を繰り上げる時は、1カ月単位で繰り上げることができます。

繰り上げた場合、現行の繰り上げ受給制度では、1ヶ月に付き0.5%年金額を減額されます。

つまり年金支給開始年齢を60歳からとした場合、5年(60ヶ月)の繰り上げになるので、「0.5%x60=30%」の減額になります。

この繰り上げ受給制度では、老齢厚生年金だけの繰り上げはできません。

老齢厚生年金を繰り上げると、老齢基礎年金も繰り上げることになります。

そしてこの繰り上げ受給による年金の減額は一生涯続きます。

「65歳からくりあげたのだから、65歳になれば減額が無くなる」と思っておられるかもしれませんが、そうではありません。

65歳からの年金額も「30%減額」された年金が支給されることになります。

年金額の「30%の減額」というのは大きいですね。

「どうしても65歳になるまで待てない」「今すぐ年金をもらわないと生活できない」という事で年金の支給開始繰り上げをしようと思ったのでしょうが、今時点の収入が少なくても、将来に渡ってどうかということも考えてください。

というのもこの「年金支給開始の繰り上げ」は、何があってもキャンセル出来ないのです。

■年金支給開始の繰り上げはキャンセル出来ない

本来65歳から支給される年金について60歳0カ月(30%減額)で繰り上げ受給した場合の累計額と、65歳から年金受給を開始した場合の累計額を計算してみると、76歳8カ月で同じ累計額になります。

76歳8カ月より長生きすれば、年金の受給額は65歳開始のほうが多くなり、その差は広がる一方です。

尚、繰り上げの1カ月あたりの減額率は、2022年4月から0.4%へ改正される予定ですが、その場合は、5年繰り上げ(24%減額)の累計額に65歳受給開始の累計額が追いつくのは80歳10カ月となります。

国民年金(老齢基礎年金)で考えてみると、20歳から60歳までの40年間(480カ月)保険料を納めた場合、65歳からの老齢基礎年金は満額の78万1700円(2020年度の年額)ですが、これを60歳0カ月で繰り上げ受給すると、54万7190円(30%減額)となります。

具体的な金額で見てみると、30%の差は大きいですね。

また20歳から60歳までの40年分の納付期間がなく満額に達していない場合は、60歳から65歳までに国民年金に任意加入して国民年金保険料(2020年度の月額は1万6540円)を納めで老齢基礎年金を増やすことができるのですが、繰り上げ受給をした人は、この任意加入をすることができなくなります。

過去に経済的な理由から免除を受けた国民年金保険料について、本来10年以内であればさかのぼって納めること(追納)ができますが、繰り上げ受給を行うとこの追納ができません。

2022年にこの減額率の改正がされると、逆転年齢が遅くなるので繰り上げがしやすくなるように見えますが、ほかにも注意点があります。

■病気が悪化しても障害年金を請求できない

病気やケガが原因で障害が残った場合に受けられる障害年金として、障害基礎年金と障害厚生年金があります。

障害年金は、原則として初診日(障害の原因となる病気やケガについて初めて医師の診療を受けた日)から1年6カ月経過した日(障害認定日)に、障害と認定されれば受給できます。

又はこの障害認定日時点では病状が軽くて障害等級に該当しなくても、その後悪化して障害等級に該当するようになった場合は、65歳の誕生日の前々日までに障害年金を請求して、受給することができます。

しかし老齢年金を繰り上げ受給すると、65歳前であったとしても、事後重症による障害年金の請求ができなくなってしまいます。

障害年金額は障害等級によって違いますが、例えば障害等級2級であれば障害基礎年金は78万1700円(2020年度の年額)になります。

この金額は老齢基礎年金の満額と同じですね。しかし繰り上げ受給していると、これから最大30%減額された額になるのです。

繰り上げ減額された老齢基礎年金より、減額されていない2級の障害基礎年金の方がありがたいですね。その上障害基礎年金は非課税で受給できます。

この事からも将来、障害なってしまう可能性のある持病のある人などは、年金支給開始の繰り上げは慎重な判断が求められます。

■遺族年金にも注意が必要

遺族年金にも注意が必要です。

公的年金制度には、亡くなった人の家族のための遺族年金もあり、高校卒業までの子(または一定の障害のある20歳未満の子)がいる場合に支給される遺族基礎年金と、厚生年金加入期間のある人が亡くなった場合に支給される遺族厚生年金があります。

60歳代で遺族年金を受ける場合、遺族厚生年金を受給する場合がほとんどですので遺族厚生年金で考えます。

遺族厚生年金は、亡くなった人の老齢厚生年金のうち報酬比例部分の4分の3が支給額になります。

65歳前に遺族厚生年金を受けられるようになった妻の場合、65歳まで中高齢寡婦加算58万6300円(2020年度の年額)が加算されることがあります。

ただし、遺族厚生年金(+中高齢寡婦加算)と、繰り上げした妻の老齢年金は、65歳までは、同時に両方を受給できませんので、いずれかを選択することになります。

老齢年金の支給を繰り上げた後に遺族厚生年金を受けられるようになった場合で、遺族厚生年金の額が繰り上げた老齢年金の額より高い場合は、65歳までは遺族厚生年金を選択することになるでしょう。

そうすると、65歳までのこの遺族厚生年金を支給される期間は、繰り上げた老齢年金は全く受けられなくなります。

65歳以降になると、遺族厚生年金と老齢基礎年金、老齢厚生年金は併せて受給することが可能になりますが、遺族厚生年金は老齢厚生年金の額に相当する部分が受けられないだけでなく、繰り上げにより老齢年金は引き続き減額されたままとなります。

老齢年金を60歳で繰り上げた場合の累計額に、65歳から受け始めた累計額が追いつくのが76歳8カ月(2022年改正後は80歳10カ月)と述べましたが、繰り上げ受給の開始後、60歳代の前半のうちに遺族厚生年金を選択受給する事になった場合は、老齢年金の繰り上げの時期、遺族厚生年金の受給開始の時期によっては60歳代で追いつき、逆転することもあります。

■「自営業の夫」の妻は寡婦年金を受給できなくなる

また自営業の場合ですが、自営業の夫が亡くなった場合に妻が受けられるはずだった寡婦年金(60歳以上65歳未満の妻が対象)が、老齢年金の繰り上げ受給によって受けられなくなります。

夫が老齢年金の繰り上げ受給中に亡くなった場合、逆に、妻自身が繰り上げ受給しているときに夫が亡くなった場合、いずれも妻は寡婦年金が受けられません。

2022年には繰り上げ時の減額率が1カ月0.5%から1カ月0.4%へと改正される予定となっていますが、減額率が下がったからといって、安易に繰り上げ受給をするのは危険です。

繰り上げ受給をする場合は、減額率以外のデメリットもよく理解したうえで請求を行うようにしましょう。

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